連載
高津社長のサステナ見聞録
#03
ゼロ・ウェイスト推進員
藤井園苗さん×高津社長
上勝町 ずっと住み続けられる町をつくるために
SDGsなんて後付け。上勝にはその前から取り組んできたことがたくさんあります。
今回から4回に分けてお送りするサステナ見聞録は、再び上勝町に学ぶシリーズ。前回いただいたご縁を頼りに、四国中央市の社長仲間と一緒に、再びサステナビリティについて考えます。シリーズ第1回は通称「園さん」こと藤井園苗さんに学ぶ、持続可能な町づくりについて。ゼロ・ウェイストだけじゃない、上勝町の多様な取り組みについて学びます。
園さん
ようこそいらっしゃいました。
高津
今回は四国中央市の社長仲間を連れて、勉強しに来ました。またお世話になります。
園さん
ここへ上がってくる途中で感じていただいたと思うんですけど、上勝町には本当に豊かな自然が残っています。ここは八重地の棚田といって、にほんの里100選にも選ばれた集落にあります。
またこの上には、高丸山という貴重なブナの原生林があり、地域住民の団体が共同で大切に管理しています。
戦時中、政府から戦闘機のプロペラ用材としてブナ林を供出するよう命令された際に、「集落の水源林がなくなったら私たちは生きていけない」と訴えて、伐採を中止させたという話が残っている森です。高丸山のブナ林は地区の共有林でしたが、その後、この森を将来に残すためにと、99年間の契約で町へ貸し出されました。
先程飲んで頂いた「阿波晩茶」、この辺の特産なんですが、乳酸発酵という非常に珍しい製法で作られているお茶で、去年ですか、重要無形民俗文化財に指定されています。
まろやかな酸味が美味しい。上勝阿波晩茶
この町は、この晩茶もそうですし、豊かな自然の恩恵を受けて生きている町です。この棚田も何かメディアで紹介されて人気になりましたが、やっぱり上勝を有名にしたのは、「彩(いろどり)」という葉っぱ・つまもののビジネスですね。
高津
有名ですよね。農家のおばあさんが年収1000万円超えとか。
園さん
はい、地域活性化の分野において本当に「彩(いろどり)」が上勝を押し上げてくれました。
葉っぱ・つまものという素材が、全く市場に出ていなかったことに気づいた一人の農協職員が、1986年、住民やお母さんたちと二人三脚で商品化し、「彩(いろどり)」ブランドとして確立させた、という映画にもなった事業です。
つまものといえば上勝だよねと言われる状況にまでなったんですが、当初から30年が経ち、過疎・高齢化の波が押し寄せていて、もう、「彩(いろどり)」の仕事を放棄せざるを得なくなったおばあちゃんがでてきています。上勝が市場の方々から信頼されていたのは、品質もありますが、300種もある少量多種の商品を安定供給できたからです。今後、担い手が減っていくことによって、欠品が出始めてくると、そこの信頼が揺らいでしまう。ではどうしようか?と何年も言われ続けているけども、まだ解決ができていません。
高津
後を継ぐ人はいないんですか?
園さん
後継者を育成すべく、若い方が入ってきてはいるんですけれども、この町の自然の中で生きてきたおばあちゃん方のレベルになるには時間がかかるようです。最近は上勝と言えばエコだよねって言われるようになってきたんですけど、それまでは、本当にずっと「彩(いろどり)」が町をPRしてくれていました。そしてなんとか二大柱になったよねって言われるようになったのが前回もお話した「ゼロ・ウェイスト運動」というエコの取り組みになります。
「ゼロ・ウェイスト運動」については後でもう少し詳しく説明するとして、その前にもう少しお伝えしておきたいのは、この町はSDGsが話題になる前から、サステナブルなまちづくりに取り組んできたということです。
上勝は林業で生計を立ててきた町なので、木を使うことが、地域再生にとって重要だと考える人はやっぱり多いんですよね。たとえば、高度経済成長期の「温泉ブーム」を背景にして建てられた月ヶ谷温泉では、冷泉を沸かしていますが、重油ではなく、この町にある木を使った木質バイオマスボイラーで温めることを選びました。宿には地元の杉材がたくさん使われています。
私が住んでいるU.Iターン者向けの町営住宅も、もともと小学校だった建物を地場材を使って住宅に改修したものです。文科省の廃校リニューアル50選にも選ばれていますが、木造りの、凄くいい感じの内装になってます。
それと、町にたった一つある中学校では薪ストーブを使っていますが、中学3年の時に薪をつくる実習があります。その子たちが小学生の時に、それぞれ名前をつけて植えた木の中から、残す木と伐る木を相談して間伐、木を倒し薪をつくります。林業の一連の流れを授業で体験するんですね。
高津
へぇ。小学生で植えた木を中学生のときに伐るんですね。
園さん
はい。上勝の「エコ」って言われてるリサイクル活動は目立つかもしれないけれど、これまでこの町の普通の町民が支えてきた「エコ」は自然、やっぱり森と木のことなんだと思います。
あと、「有償ボランティアタクシー」の取り組みも全国初なので、お伝えしておくと。
不採算路線であった民間のバスに撤退され、タクシー会社もなくなったとき、普通の一般市民が一種の普通免許で、お金をとって送迎するというのを日本で初めて合法的に実現させたのは上勝なんです。うちが成功したので規制緩和になって、全国各地の80ヶ所以上でいろいろな地域送迎サービスが始まっています。
一般の法律ではこの小さな山間部の町には全然合わないので、都度、規制緩和を訴えていくというのが上勝は達者ですね。
高津
なるほど。
園さん
最近、SDGsがブームになってますけども、私たちにしてみれば、SDGsなんて後付けです。人口が減っていけば、この町が本当になくなるぞ、とこの危機感を何十年も持ち続けていますから、SDGsの目標11「住み続けられる町」づくりは日々のテーマです。平成25年3月、上勝町は「持続可能な美しいまちづくり基本条例」を制定しました。その第四条・基本理念にはこのように書かれています。
(1) 良好な環境及び景観の保全
(2) 美しい自然との共生
(3) 地域の活性化と雇用の確保
(4) 情報の発信と交流の拡大
(5) ふるさとに誇りを持つ人づくり
(6) 地域自治の拡充
これをみればわかるように、経済、環境、社会、を総合的にやっていこうとしています。そうでないとこの町は本当になくなってしまうかも知れない。
今の上勝は全国的に知られていますから、企業さんと連携もしながら、きっと何か新しいプロジェクトもできる。でもそれだけでは町は存続しません。お金のないことが本当の問題ではなくて、それを繋げる人が足りないんです。いまやれる人はみんな兼業&兼業で、なかなかしんどいです。
皆さんの町でも、昔はそうだったと思うんですけど、この町では平成9年までゴミは自分で焼いてました。いわゆる「野焼き」ですね。で、県や国からご指導を受けまして、町は初めて焼却炉を持ったんですけれども、ほどなくして基準値を超えたダイオキシンが出てしまったんです。で、即閉鎖になって。さてどうしよう、という時に、当時の町長が、「そもそもゴミを燃やすという非生産的なことに町民の大事な税金をもう使わない」「できるだけ燃やさない」という方針に転換しました。それが本当にこの町とって大きな変化でした。
それを、世界でゼロ・ウェイストを提唱していた化学者のポール・コネット博士が見つけてくださり、上勝での講演をきっかけに、一緒にやろうよとお声掛けいただきました。自治体として日本で初めてゼロ・ウェイスト宣言を行ったのが2003年のことです。
2003年の上勝町ゼロ・ウェイスト宣言
未来の子どもたちにきれいな空気やおいしい水、豊かな大地を継承するため、2020年までに上勝町のごみをゼロにすることを決意し、上勝町ごみゼロ(ゼロ・ウェイスト)を宣言します。
宣言をしたからといって、町民がすぐにゴミの資源化に協力できたわけでは全くありませんでした。ゴミの集団回収・処理のしくみに慣れておらず、そもそもゴミを適切に処理するところもできていなかったので、そこから私たちの試行錯誤がはじまります。
この動画をご覧ください。英語ですが町民の言葉を日本語で聞くことができます。
ほとんどの日本人はゴミを燃える・燃えないでしか見ないけれども、上勝では、それをリサイクルできるものか、できないものか、で分けてください、というのが特徴です。今このように13種類45分別という45種類に分けてますけれども、青と黄色までが資源化できます。青が買ってもらえる、処理費のかからない資源。黄色は処理費がかかるけれどもリサイクル可能なもの、一番右の赤い部分、焼却埋め立てって書いてあるものだけが、うちの町ではリサイクルできないものです。
上勝町のゴミステーション分別(13種45分別)
カテゴリーだけ見ても8割がリサイクル可能であることを分かっていただけるでしょうか。処理費のかかる黄色の代表的なものはプラスチックですが、お金がかかるということは、どこかで循環の輪に無理が生じている資源だということであり、これらについては考えていく必要があります。
私たちは、こうした面倒くさい分別を町民にお願いするために、徹底した情報開示を心がけています。なぜこの分別をしなければならないのか、一つとして理由がない分別はありません。集めたものがどこに運ばれて何に生まれ変わるのか、それにどのくらいお金がかかるのか、そういったことが町民ひとりひとりにちゃんと届くように工夫しています。
都市部の行政が一番困るのって情報をとどけることなんですよね。みなさん区報とか市報とかあまり読まないんじゃないですか? ここでは、町民がゴミステーションに来てくれるので、その場で正しい情報をお伝えすることができる、小さな町ならではの利点ですね。
私は町民のみなさんに「紙はお金です」と言っています。ゴミの中でもリサイクル優秀な資源は紙です。ほとんど捨てるものはないくらい。とは言え十数年前までは、上勝町でもコーティングされた紙でリサイクルできたのは牛乳パックくらいでした。古紙再生促進センターのホームページに、再生できない紙の種類が並んでいますが、それと同じ状況です。それが、(株)日誠産業という難再生紙のリサイクル技術を持っている会社と出会うことで、上勝は紙ゴミの資源化をすすめることができるようになりました。
豆乳のアルミ付紙パック
この日誠産業さんは、徳島県の阿南市にある会社で、私たちがアルミ付の紙パックがリサイクルできなくて、困っていたら「え?それうちでリサイクルできますよ」って。日誠さんは、BtoB事業の会社で、工場の損紙などを扱っていたけど、自治体が困っていることを知らなかったそうです。
そこで出会いがあって、私たちの困った状況をお話して、これ出来ますか、あれ出来ますか、と消費者側からの相談を重ねていきました。おかげで私たちも古紙再生について正しい知識を学ぶことができ、あらゆる紙のリサイクルを解決していって、現在のリサイクル率80%達成に大きく貢献出来ています。
また、日誠産業さんからも、上勝と取引をすることによって、日誠さんの再生パルプを利用したいという引きあいが大変強くなったとのことで、その売り上げに少しでも貢献することが出来たのは嬉しかった。
私たちが「ゼロ・ウェイスト」で本当に豊かにしたいのは町民の暮らしです。
そこで、寄せていただいた協力を町民にお返しする還元策にも取り組んできました。ひとつはこの「ちりつもポイントカード」です。最初は雑がみ救出作戦としてポイント制を導入したのですが、町内商店でレジ袋を断る、洗剤など、量り売りに協力することでもポイントが貯まるようにして、日用品と交換することができます。ギャンブル要素で「やる気」になる人もいるので、月一回、3,000円があたる抽選会もあります。人口が少ないのでこれが結構当たる(笑)
上勝町 ゼロ・ウェイストカード
イベント時に使い捨てゴミがでないよう、繰り返し使える食器を無料で貸出したり、くるくるショップっていう不用品のリユースショップがあったり。大きな飲食店もコンポストに取り組んでくれたり、最近では地ビールのブリューワリーが、醸造の過程でできる排水から農業用の液肥を作って、町民に分けてくれたりもします。
どの飲食店でも、余った料理を持ち帰るのは普通だし、町民は誰でもマイボトルをもって行動しています。特別なボトルじゃなくてもビールも入れてくれますし、給水ポイントもいろいろなところにあります。町内飲食店の取り組みをお客さまに評価していただけるように、ゼロ・ウェイスト認証もはじめました。8つの項目があります。
他には、お年寄りの見守りをかねた、ゴミ回収の運搬支援ですとか、使い捨て紙オムツを布オムツに替えようというお母さんたちの子育て支援ですとか、ゴミを出さないキャンプとか、木の糸で作った布「KINOF」だとか、「ゼロ・ウェイスト」というテーマで、本当にたくさんの活動がおきています。
そんなふうにして、上勝はゼロ・ウェイスト宣言を掲げて、まちづくりに取り組んできました。目標とした2020年には再資源化80%を達成して、メディアにもたくさん取り上げていただきました。でも一方で、本当に私たちが目指していることは、ゴミをゼロにすることではなくて、その事によって得られる豊かさなのですが、それが伝わっていないと思うことがあります。私たちはこの豊かな自然を守る、そして次世代に受け継ぐためにゼロ・ウェイストを宣言しているのであって、ゼロ・ウェイスト宣言自体が目標ではありません。
2020年を越えたとき、新しい宣言をすべきかどうか議会で話し合いました。資源化については、消費者としてできることの限界に近づけたけれど、それに伴うはずの人づくり、仲間づくりについては、成果を出せてなかったんですね。そこで、次の10年に向けて、「人づくり」を重点目標に掲げた新しいゼロ・ウェイスト宣言をすることにしました。
「ゼロ・ウェイスト宣言」2030年に向けて
2003年のゼロ・ウェイスト宣言から17年、上勝町では町民一人一人がごみ削減に努めリサイクル率80%以上を達成しました。小さな町の大きな挑戦は世界から注目され、持続可能な社会への道筋を示しました。
私たちが目指すのは、豊かな自然とともに、誰もが幸せを感じながら、それぞれの夢を叶えられる町です。
上勝町はゼロ・ウェイストの先駆者として、「未来のこどもたちの暮らす環境を自分の事として考え、行動できる人づくり」を2030年までの重点目標に掲げ、再びゼロ・ウェイストを宣言します。
1は、今の資源循環率を維持しながら経済的にも精神的にも豊かになったと証明すること
2は、製造や流通などあらゆる分野の方とも意見を交換してできることを探すこと
3は、ゼロ・ウェイストを学ぶなら上勝だね、というような教育プログラムを提供したいと考えています。
高津
ありがとうございました。本当に真剣によく考えられていて、素晴らしいですね。
こうした取り組みは都市部でもできると思いますか?四国中央市は8万人規模の都市ですが、
どうしたら良いでしょう?
園さん
世界の大都市でも80%を達成している都市はあります。サンフランシスコがそうです。そうした都市では、資源化のための分別はリサイクル業者が担当するんですね。消費者が行う分別は燃えるもの、コンポスト、資源化できるもの、の3つだけです。アメリカは合理的なことしかしないですから。上勝の取り組みは上勝のための手法であって、他の自治体にはそれぞれの解があると思います。四国中央市には四国中央市にあった解があるのではないでしょうか。
高津
そうですね、ありがとうございました。
園さん
はい、またいらしてください。
手を振って見送ってくれる園さんたち
PROFILE
藤井 園苗(ふじい・そのえ)さん
一般社団法人ひだまり 理事、上勝町ゼロ・ウェイスト推進員
1980年、徳島県藍住町生まれ。2008年に徳島県上勝町へ移住。2014年までゼロ・ウェイストアカデミー事務局長を務める。徳島県環境アドバイザー、NPO法人環境首都とくしま創造センター理事、徳島大学非常勤講師、2030SDGsカードゲームファシリテーター、ふじい代行代表、上勝町人権擁護委員
高津社長のサステナ見聞録
私たち高津紙器では、地球環境問題/脱炭素社会への意識の高まりを背景に「プラスチックよりも紙」に追い風が吹いていることを認識していますが、 一方で手掛ける製品のほぼすべてが使い捨て用途であることから、紙だから「環境に良い」製品開発を行っていると言って良いものか、悩んでもいます。
そこで、この企画では自社の製品開発において改めて環境負荷を減らすためにできることは何か?を探し、環境意識の高いお客様に向けた提案力を高めることを目指して、 社長自らが見て聞いて、感じて学んだことを発信してゆきます。社員・スタッフはもちろんのこと、お取り引きのあるお客様にも広く共有させていただき、 一緒に取り組んでいけることを願っています。
2024.06.25 UP
2024.06.25 UP
#07(後編) 古紙の発生地にはどこへでも行く。多様な古紙をリサイクル・ルートに乗せて、リサイクルパルプの新たな価値を創造する日誠産業
サステナ見聞録第7回は、これまでの取材でもその技術力の高さで、たびたびお名前が登場していた、リサイクルパルプの製造販売を手掛ける、株式会社 日誠産業の島大樹専務をお迎えして、お話をうかがいました。後編をおとどけします。
2024.05.20 UP
2024.05.20 UP
#07(前編) 古紙の発生地にはどこへでも行く。 多様な古紙をリサイクル・ルートに乗せて、 リサイクルパルプの新たな価値を創造する日誠産業
サステナ見聞録第7回は、これまでの取材でもその技術力の高さで、たびたびお名前が登場していた、リサイクルパルプの製造販売を手掛ける、株式会社 日誠産業の島大樹専務をお迎えして、お話をうかがいます。
2023.11.28 UP
2023.11.28 UP
#08(後編) 初の展示会、どうだった?
食にまつわるメーカーが多く参加した展示会で、初めて作ったオリジナル商品である紙トレーやランチボックスはどのような反響があったのか、参加した社員に尋ねました。
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