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古紙の発生地にはどこへでも行く。 多様な古紙をリサイクル・ルートに乗せて、 リサイクルパルプの新たな価値を創造する日誠産業
Interview

高津社長のサステナ見聞録

#07(前編)

株式会社 日誠産業

島 大樹さん × 高津俊一郎

古紙の発生地にはどこへでも行く。 多様な古紙をリサイクル・ルートに乗せて、 リサイクルパルプの新たな価値を創造する日誠産業

サステナ見聞録第7回は、これまでの取材でもその技術力の高さで、たびたびお名前が登場していた、リサイクルパルプの製造販売を手掛ける、株式会社 日誠産業の島大樹専務をお迎えして、お話をうかがいます。

Interview
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高津

この連載コーナーは、「紙はエコだ」と言いながら、実際どうエコなのか、僕を含めてよく分かっていない人が同業者に意外に多い、と気づいたことから始まりました。木がサステナブルな素材だとか、リサイクルしやすいとか、それはそうですけど、実際、自分のところでつくっている商品がどれだけエコなんだろう、まずは勉強しようと。それで、紙業界の仲間をつれて上勝町に行き、そのあと東京の古紙再生促進センターにも行きました。

リサイクルするためには古紙を上手に回収する仕組みが必要で、そのためには社会的な理解や消費者の協力が必須だということは、ある程度分かっていました。でも、お話を伺う中で、新聞紙や雑誌が減ると生産できなくなるリサイクル紙があることや、禁忌品とよばれて回収できない多くの古紙が、リサイクルされずに焼却されることを知ったんですね。また、飲料容器の牛乳パックが禁忌品とならず例外的なのは、以前から市民運動による集団回収の仕組みが整っていたからだということなどもわかりました。

禁忌品とされるものが思ったより多くて驚いたのですが、日誠産業さんなら、禁忌品とされる古紙をリサイクルする技術力があると伺って、ぜひこのコーナーで取材させていただきたいと思いました。

島さん

ありがとうございます。
一般に禁忌品とされているものでも、やり方次第でパルプ化できるものがまだまだあります。まずは当社について説明させてください。

高津

お願いします。

1973年創業。市民による牛乳パックの回収運動のひろがりとともに

島さん

当社は、1973年に株式会社日誠産業として設立されました。主に牛乳パックを原料としてリサイクルパルププラントを動かしています。設立当時はちょうど市民による牛乳パックの回収運動が始まるくらいのタイミングでした。そこから徐々に、古紙の種類が増えてきていて、今ではさまざまな紙のリサイクルについて問い合わせがあります。
1996年に現日本製紙クレシアさんの資本参加をいただきまして、今、当社の生産が2,000トンくらいあるんですが、その約半分がスコッティというティッシュの原料になります。

リサイクルパルプの原料となる牛乳パック

リサイクルパルプの原料となる牛乳パック

リサイクルパルプから作られたハンドタオル(業務用)

リサイクルパルプから作られたハンドタオル(業務用)

高津

御社の名前は紙業界ではよく知られているのではないでしょうか。

島さん

うちのリサイクルパルプを使って貰えそうな製紙メーカーさんは、すべて営業で回っていますし、古紙がでそうなところにも、別の仕入れ部隊が回っていますから。

高津

販売と仕入れ両方で。

島さん

主な原料は、牛乳パックです。年間2万トンくらいあり、日本国内で発生する量の20%くらいを当社で処理させてもらっています。仕入先は牛乳パックの印刷メーカーから出るロス品と、乳業メーカーなどでいったん中身を詰めて、テストや検査のために廃棄されるような、充填損紙。あとは、値段さえ合えば全国の古紙を回収されている古紙問屋さんからも購入させてもらっています。

他には、最近増えてきているんですけど、市民団体や行政などから。小学校の学乳パックなどは一時期、すべて廃棄に回ったんですけど、また徐々に集めていっている状況です。

各地から収集された古紙。古紙以外のものは無く、工場内は大変きれいに片づけられていました

各地から収集された古紙。古紙以外のものは無く、工場内は大変きれいに片づけられていました

高津

増えているんですか。

島さん

はい。今まで捨てられていたり、燃やされていたものの掘り起こしを、当社で行っているので。牛乳パックだけでなく、御社のように加工されている所から、型を打ち抜いた後の外側などの古紙を購入させてもらうケースもあります。紙の発生地は、基本的に行ける所はすべて回っていると思います。

高津

販売先は?

島さん

販売先は、まず先程お話した家庭紙メーカーです。ティッシュ、トイレットペーパー、タオルペーパーなどをつくっているところですね。洋紙メーカーさんにも結構納入させてもらっています。奉書紙(ほうしょし)などの和紙メーカーさん、特殊紙メーカーさん、板紙は大手さんへ。あとはモウルドメーカーさん、建材メーカーさんにも。これは戸建ての家の外装材に使われる、アスベストの代替でご利用いただいています。

高津

御社の生産量はどのくらいですか?

島さん

当社の生産能力は1日当たり82、83トンです。古紙の使用量で言うと100トンくらいです。月にすると2,100~2,200トンくらいのリサイクルパルプを生産しています。

工場をご案内いただいた岸野正和さん

工場をご案内いただいた岸野正和さん

国内外で認められる、リサイクルパルプの高い生産品質

高津

リサイクルパルプの生産工程について教えていただけますか?

島さん

家庭で飲まれて回収されてくる牛乳パックは、古紙屋さんで圧縮梱包(ベーラー化)され、大型車単位で当社に届きます。
それを選別し破砕加工を行って、手のひらくらいのサイズにしたものを、本社工場で溶かします。これがパルパーという機械で、薬品と温水を用いてドロドロに溶かします。この時点でラミネートフィルムと紙の部分が分離されている状態です。

破砕加工前の様子

破砕加工前の様子

パルパーで溶かしているところ

パルパーで溶かしているところ

分離したフィルム部分

分離したフィルム部分

これを、上から水を落としながら下から抜き出します。パルパーの底に穴の空いたプレートがありまして、フィルムを漉し取るようなイメージですね。重量比で99%くらいはフィルムとパルプがここで分離されます。残り1%の小さなフィルムは次の除塵工程で取っていきます。
除塵方法は2工程あります。1つ目がザルを通すように、穴の空いているところを通してフィルムをかき取る形状分離。一番目穴が狭いところが0.12ミリです。
それでもここを通過してしまった本当に微細なフィルムを取るのは比重分離です。サイクロンの原理で重いパルプと軽いフィルムを分け、フィルムを取り除きます。

リサイクルパルプの品質を見極める

リサイクルパルプの品質を見極める

こうして出来上がったパルプは、フィルムの混入率がほとんどゼロに近い状態です。次の段階で脱水し、ドロドロのものをシート状にしていきながら水分を切り、パレットの上に積み上げて完成です。海外へもこの荷姿で輸出されていきます。

リサイクルパルプの完成品

リサイクルパルプの完成品

高津

海外にも。輸出先によっては環境認証を取得している必要があるのじゃないですか?

島さん

ええ。2012年にエコアクションを取得し、2013年にはFSC認証のCoC、FSCリサイクルパルプとして認証を取得しています。FSC認証は、韓国の製紙メーカーさんが当社のパルプをスマートフォンのGalaxyの外箱に採用するにあたり、どうしても認証を取ってほしいということで取得しました。
今では当たり前になっていますけど、当時はかなり珍しかったです。でもそこから海外のお客さんが徐々に増えていったという起点にはなっています。

高津

なるほど。例えば韓国でリサイクルパルプは作れないんですか?

島さん

作れるところはあるようですが、世界的に見ても、当社ほど高い品質でリサイクルパルプを生産しているところがないんですね。これはオランダの事案ですけど、オランダで使用済みの紙コップが3年おきぐらいに当社に届きます。それをパルプ化して、韓国のメーカーで紙コップに配合し、またオランダに紙コップが送られます。3国間の大きなリサイクルフローです。

あとは、マカオのカジノホテルで使われる使用済みのトランプをパルプ化しています。トランプは金券扱いで、不正を防止するため、その都度捨てられます。1回ないしは2回ぐらいですって。1カジノホテルグループだけで200トンくらいでるんですが、それが燃やされていたので、紙コップなど、カジノで使っているものに生まれ変わらせて使ってもらおうというプロジェクトを行っています。

お話を伺った島専務

お話を伺った島専務

高津

国内では?

島さん

国内向けの代表的な企業案件としては、コーヒーチェーンとの取り組みがあります。直営店舗から集まる牛乳パックをパルプ化し、富士市の製紙メーカーさんで紙ナプキンに製造してもらっています。当社のパルプが70パーセント配合されています。

持続可能な社会の実現に向けて、上勝町に関係会社「きせきれい(株)」を設立

島さん

時代の追い風もあって、当社は牛乳パックのリサイクルパルプ化だけでなく、紙のリサイクルについて、さまざまな相談を受けるようになりました。
なかでも、当社と上勝町とは、これまで10年にわたって紙ごみのリサイクルに協力させてもらっており、そのパートナーシップ契約を背景に、さまざまな相談が来ていました。上勝町はリサイクルで世界的に注目されているので、いろんな企業や団体さんが相談に来られるんですが、その一部が当社にくるケースも増えてきて。そこで、2021年9月、当社の関連会社で産業廃棄物の中間処理を担当する(株)日徳という会社のSDGs部門を分社化をし、上勝町に本社を置く「きせきれい(株)」を立ち上げました。上勝町のためになるし、企業案件の循環型リサイクルをつくるためにも、お互いに協力できるのじゃないかと。

SDGsをめざして循環型社会をつくるためのプロジェクト企画や、多様なセクターの連携提案などについては「きせきれい(株)」が、紙のリサイクルは日誠産業が、ごみの話には日徳が、相談に乗ります。行政・企業・地域がうまく回るような中心に「きせきれい(株)」がある、そうした役割を担っていけたらと考えています。

広島の「折り鶴の恩返し-ONGAESHI-プロジェクト」で、日誠産業の名前が知られるように

島さん

折り鶴のリサイクルは当社の名前を知っていただく良い機会になりました。2012年でしたか、広島平和記念公園に届く100トンくらいの折り鶴を処分してほしいという相談があったんです。しかし100トンという数量は当社でも1日分にしかならないし、さまざまな紙で折られていますから、古紙原料としては魅力がないんですね。でも贈ったひとたちの想いが託された古紙なわけですから、ゴミとして燃やしてしまうのはどうだろう、と気になったので、社長と相談して。それでやってみようかと。

高津

多種多様な紙が入りますよね、掃除が大変ではないですか?

島さん

大変ですね。当社はワンラインしかないので。集中的に作業をして、その後は2日間工場内を洗わないといけないです。

高津

そこがすごいですね。

島さん

お陰で注目されるようになったかなと。いろんな取材も来ていただきました。

高津

折り鶴のパルプは何になるんですか?

島さん

出来上がったパルプからレーヨンを生成しまして、レーヨンでTシャツをつくるというところからスタートしました。「折り鶴レーヨン」と呼ばれています。ミラノサローネにご招待いただいたり、四国であった夏フェスに招待していただいたりもして、2015年にエコプロダクツ大賞、2017年に環境大臣賞、2022年に内閣特命担当大臣賞をいただきました。

折り鶴のパルプから作られたTシャツ

折り鶴のパルプから作られたTシャツ

高津

すばらしい。

地元地域の小さな声から始まる一歩も

島さん

これも最近始めたんですけど、近場のローソンのマチカフェから出る牛乳パックを回収しています。これはある店舗のオーナーさんから「捨てるのはもったいないから」と直接相談があった案件で、現在では近隣の6店舗に拡大しています。店頭に回収ボックスもおいて、一般家庭のお客さんからも集めるようになりました。

高津

それは御社が回収に行かれていらっしゃる?

島さん

今はそうです。近所なので、従業員が立ち寄って持って帰ってくる。これがもし徳島県全域に広がった場合は、回収車を用意して、地元の古紙回収業者さんに依頼をかけて、全部引っ張って来られるといいですね。店舗ではこの牛乳パックがリサイクルされたハンドタオルも売っていて、リサイクルが見えるような取り組みになりました。

高津

なるほど、燃やされている古紙を掘り起こしてリサイクルルートに乗せる、ということを地元にお住まいのみなさんとも連携して実践されているんですね。リサイクルされていない古紙を再生ルートに乗せる、というのはそう簡単では無いことだと思うのですが、その辺をもう少しお聞かせください。

(後編につづく)

後編を読む →

PROFILE

島 大樹(しま・ひろき)さん
島 大樹(しま・ひろき)さん

島 大樹(しま・ひろき)さん

株式会社日誠産業 専務取締役。
平成11年に入社。原料部を経て、原材料部、開発営業部、営業部の各部長職を務めた後、令和4年6月より現職に就任。
令和4年7月からは、上勝町に設立した関連会社「きせきれい株式会社」の取締役も務める。徳島県牟岐町出身、1981年生まれ。

高津社長

高津社長のサステナ見聞録

高津社長

私たち高津紙器では、地球環境問題/脱炭素社会への意識の高まりを背景に「プラスチックよりも紙」に追い風が吹いていることを認識していますが、 一方で手掛ける製品のほぼすべてが使い捨て用途であることから、紙だから「環境に良い」製品開発を行っていると言って良いものか、悩んでもいます。
そこで、この企画では自社の製品開発において改めて環境負荷を減らすためにできることは何か?を探し、環境意識の高いお客様に向けた提案力を高めることを目指して、 社長自らが見て聞いて、感じて学んだことを発信してゆきます。社員・スタッフはもちろんのこと、お取り引きのあるお客様にも広く共有させていただき、 一緒に取り組んでいけることを願っています。

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