連載
高津社長のサステナ見聞録
#01(前編)
ゼロ・ウエイストセンター所長
大塚桃奈さん × 高津俊一郎
上勝町 ゼロ・ウエイストタウンの挑戦とは?
「なんでそもそも捨てるものを作るの?って思いませんか」 でもみんなこの便利さを諦められるんですかね?
高津
僕、失礼かも知れないんですけど、上勝町のゼロ・ウエイスト宣言って、何かイマドキの若者たちが、流行りのエコトレンドに乗ろって地方創生(街を注目させて、再生させる?)を目指しているだけなんじゃないのか?(いい意味で)ぐらいに思っていました。
でも、上勝町にはゴミの焼却炉と収集サービスがなくて、以前はゴミを「野焼き」していたとか、家電製品は山に捨てていたとか、そういう歴史を教えていただいて。 その状況から、住民皆さんの長い歴史とご苦労があって、努力と工夫の積み重ねの上にリサイクル率80%を達成して、このゼロ・ウエイストセンターができたのだと聞いて、来る前とは全然印象が変わりました。
大塚
ありがとうございます。そうですね。もとはこの町で出続けるゴミを効率よく資源化して、みんなが暮らし続けていける町になるために、小規模な自治体としてどう向き合うか、という課題からスタートしています。最近はSDGsをテーマした取材が多く、去年は70以上のメディアに掲載していただく機会がありました。
高津
実際にここに来ることが、一番勉強になるんでしょうね。
高津紙器は139年前から紙管を作っている会社ですが、ここでは、硬い紙芯と柔らかい紙芯が分別されて行き場が違う、ということや、他の紙類も資源化するには9種類に分別する必要があることなど、はじめて知りました。
それから「野焼き」も知りませんでしたね。まさか住民が自分でゴミを焼いていたとは。
大塚
これ、モノクロの写真なんですが。
大きな穴を掘ってなんでもかんでも、この中に入れて焼いていたそうです。
高津
いやぁ、インパクトありますね。そこってパンフレット等でもあんまり触れられてないところじゃないですか。
大塚
最近はそういう過去の話もちゃんと伝えていこうとしています。やっぱり町にとっては黒歴史じゃないですか。でも、良くないと思いながらしてきたことも、隠さずに見て知ってもらうことで、今は真剣に向き合っているということが伝わると思うんです。
ここでは、自分が分別ボックスに入れたものが、どこに行って何になるのか、その処理のコストとして、いくら町から出ていって、いくら町に入ってくるのか、上勝町はできるだけ全部見える化しています。この町で暮らすみんなに、自分たちが関わることによって、何がどうなるのかというのをちゃんと伝える。そうじゃないと、人って動かないじゃないですか。
高津
ご存知のように最近は「プラスチックから紙へ」という流れがあって、お客様に「紙の時代がきましたよ。環境に良いから、紙で作ってください」って言われますが、本当に紙がいいのか、突き詰めて勉強できてないところもあるんです。
紙はリサイクル優等生で、その起源は平安時代にまで遡ることができます。でも、今私たちが住んでいる町では、ダンボールと牛乳パック新聞雑誌?ぐらいしか再生ルートに回らなくて、他は全部燃えるゴミになってしまう。それを環境に良いと言っていいのかなと。プラよりは良いのかも知れませんが。
例えばこの紙トレーももとはプラスチックだったものが、これに置き換えられたんです。でもこれも結局、燃えるゴミになってCO2を出すわけだから、本当はこの使い捨て容器自体が無くなるのが良いのだろうなって考えていて。もしくは、リサイクルしてほしい。
当社の事業は、大量生産・大量消費で皆さんがドンドン捨ててくれたほうが、事業を拡大できるわけですが、これからはそれじゃダメかも知れない。上勝に来れば、我々の作ったものが消費者にどう捨てられているか分かるよと勧められて、勉強に来たというわけです。
大塚
ようこそ。そういう私も2年目ですが。
作って、使って、捨てるっていうこれまでの流れの中で、最近は捨てないでまた作るところに戻す「サーキュラー・エコノミー」に変えていこうという考え方が広がりつつあります。なので、おそらく紙容器も、消費者ではなくて、製造者側が回収・再生するループが作れるどうかかがテーマになるのではないかと。
高津
そうですよね。当社も今は作って販売しっぱなしなんですよ。
大塚
今後はそれらを回収していく予定ってありますか?
高津
回収したいですね。そうしたいけど、売り上げが落ちるかも知れない。
大塚
どうして売り上げが落ちるんですか?
高津
当社は使い捨てのための紙容器をつくっているので、回収して利益につなげるしくみを新しく作らないと。損していたら事業は続かないので、せめてトントンぐらいにはしたい。
ただ、社会は多分ゼロ・ウエイストの方向に向かい、使い捨て紙容器もいずれ減っていくだろうと思っているので、それを前提に、今から準備していこう、という気持ちもあります。
高津
上勝町は80%のリサイクル率を達成した(全国平均は20%)けれど、あと20%が残った。20%はどうしても自分たちでは処理できない、ということについてどう考えていますか?
大塚
そうですね、「なぜ最初から再生できないものを作るの?」って。そう思いませんか。今も日本中でゴミは出続けていて、最近の焼却炉の性能は良くなっているけれど、それでも焼却できないものは埋め立てなきゃならない。あと22年しか埋め立てることができないと言われている中で、なんでそもそも最初から「捨てるものを作るの?」というのはありますよね。
高津
でも、この文明の便利さみたいなのをみんな諦められるんですかね。環境のためを考えて。
大塚
どうでしょう。MaaS (モビリティ・アズ・ア・サービス)っていう、あらゆるモノと人の「移動」をひとつのサービスとして効率化しようとする動きがあるのですが、そうすると近い将来、多分、所有の概念が変わってくると思うんです。必要な時だけ手元にあれば良いから。だから環境に良い暮らし方が、必ずしも便利さを諦めて過去の暮らし方に戻ろう、ということにはならないはずです。
だから上勝の「残り20%」は、作る側や流通させる側のみなさんと協力して解決していきたいんですね。
高津
なるほど。では、この環境への意識や取り組みの流れって世界的にどこまで広がるとお考えですか。一部だけにとどまるのか、せめて先進国ぐらいは広がると?
大塚
そうですね。このタイプの質問、すごく迷うのですよね。自分の中で答えが出ていないから。
高津
日々の食糧に困っている途上国なら、環境のことを考える余裕がないのは仕方がないと思うんですけど、先進国の企業でも、どんどん捨ててくれた方が良い、損をしそうでなかなか環境への対応ができない、っていうところがまだ多分多いとも思うんです。それでも世界でこうした環境への流れってまだ加速しますかね?
大塚
すると思いますね。先進国と途上国という分け方は私の中では使いたくない言葉だけれども、ヨーロッパだと実際にサーキュラーエコノミーが政策として取り入れられています。
今まで経済成長ありきで進んできたけれど、これまでのような成長が永遠には続かないことが今の社会で分かってきて、そこをどうスローダウンできるかっていう課題が設定されているのじゃないかと思います。
大塚
上勝も今、ゼロ・ウェイストの次のフェーズに入って来ていて、SDGsの目標年でもある2030年に向けてあるべき姿を描こうとしています。ゴミはなるべくゼロに近づけた上で、町の人が豊かに暮らせるようにしよう、という目標を掲げていて。そこには物質的な豊かさと、心の豊かさのバランスをどうとっていけるのかというところがあるのかなと思います。
高津
江戸時代って、日本人はそんなに裕福じゃなかったけど、結構、楽しそうで心が豊かだった、だから江戸時代の生き方に習おう、いう話を良く耳にしますよね。でも僕は社長としてやっぱり会社を成長させて、売り上げを増やし、社員の給料も増やしたいと思ってしまって。
心の豊かさとお金って両輪じゃないですか。社会状況がどうであれ、自分たちの会社は成長したい。これから環境問題に取り組んでいくことで自然と会社も成長できて、社員の心も豊かになったら最高なんですが。
大塚
そうですね。サーキュラーエコノミーは、作る側が、作っただけで終わらせないで、使っている先の場面を考える必要に気づくきっかけになると思います。
別に買わないでくださいってわけじゃなくて。どうやって、サステナブルな事業にしていくか、って考えたときに、製造する企業と販売する企業、その先でプロダクトを使うお客さんと、長く続く関係性をどう築くかが、大切ですよね。 愛着が生まれたり、作っている人や場所に思いを馳せてもらったりするにはどうしたら良いか…
私もまだ勉強しているところですけれども、今までは一直線上で作って終わりだったものを、捨てないで集めて資源にして、また届けるっていうところに新たな関係性を築くにはどんなアイディアやコミュニケーションがあるだろうか、上勝に来て下さった人たちとできることは何だろうと考えています。
高津
紙のリサイクルの歴史は本当に古くて、再生技術も回収の仕組みもこれまで沢山の工夫がされてきています。でも、いつもその時代ごとの課題というのはあって、もし、今の紙業界というか紙の工場とか製紙会社に対して求めること、こうして欲しいみたいな要望があれば教えていただきたいです。紙は環境に良いってみんな言うけれども、世界中で。
大塚
そうですね、ライフサイクルを考えたときに、プラスチックだと石油だから限度があるけれど、紙は再生循環しやすいというかリサイクルやリユースにつながりやすい素材ですよね。
高津
紙は土にもちゃんと還りますしね。この紙トレーはお好み焼き用なんですが、ラミネートフィルムを貼る場合が多いんです。うちではそうせずにアクリル樹脂を塗っているので、環境負荷が低いのがポイントです。(リサイクルできます)
環境物質有害性のないアクリル塗料を使用した紙トレー
リサイクル可能(自治体の回収方法による)
大塚
いいですね。私、そういう出口の加工が気になります。紙そのものは再生しやすい素材なのに、ラミネート加工とか、銀紙加工とか、加工を複雑にしたために、再生できなくなる。そういう加工紙は紙のリサイクルマークが付いているのに再生してもらえない、燃やすしかない。紙マークは容器包装をする側のためにあって、資源化に協力したい私たちのためではないのか、というのも衝撃で。だから、より分別しやすいデザイン、パッケージを開発していただきたいなと。
高津
容器リサイクル法では、重量が大きい方を表示しているだけで、51%が紙だったら紙リサイクルマークをつけてOKなんです。紙は環境に良いって言いながら、こういう紙は再生されずに燃やされてしまう。日本の焼却炉は性能が良くダイオキシンなどは出さないのですが…
それと最近はラミネートフィルムだけを剥がして捨てられるトレーを開発しているところもあります。
大塚
へぇ。それ良いですね。そういうのを何か実験的に一緒に開発して発信していけたら。
高津
いいですね、ぜひやりましょう!
大塚
ところでこうした紙製品の材料はどこからきているんですか?
(後編につづく)
PROFILE
大塚 桃奈さん
株式会社 Big Eye Company CEO(Chief Environmental Officer)
1997 年生まれ。湘南育ち。高校のロンドン留学をきっかけに、ファストファッションを取り巻く様々な社会問題に気づき、「長く楽しめる服」づくりとは何かを考え続けている。2020年3月に国際基督教大学教養学部卒業後、徳島県・上勝町に移住し、 同年5月30日にグランドオープンした「上勝町ゼロ・ウェイストセンターWHY」に新卒で就職。現在、山あいにある人口1,500人ほどの小さな町・上勝町で、ごみと向き合う日々を過ごす。
ゼロ・ウエイストセンター
https://zwtk.jp/zwcenter/2003年、上勝町は町内から出る焼却・埋め立てごみをゼロにするという目標を掲げ、日本で初めてゼロ・ウェイスト宣言を行った町。町民は唯一のごみ収集場 ( 旧ゴミステーション ) に自らごみを持ち込み、できる限りの分別、資源化を行う。リサイクル率は 80%を超え、日本国内はもちろん海外からも視察や取材が訪れるようになった。
2020 年 4 月、旧ゴミステーションをリニューアルして、徳島県上勝町の公共複合施設、上勝町ゼロ・ウェイストセンター「WHY(ワイ)」がオープン。施設内には宿泊棟、ゼロ・ウェイストアクションホテル「HOTEL WHY」もが併設されていて、町民にとっての利便性はもちろん、町外から訪れた人たちがゼロ・ウェイストの理念を学び、世界に広げていける施設を目指している。
高津社長のサステナ見聞録
私たち高津紙器では、地球環境問題/脱炭素社会への意識の高まりを背景に「プラスチックよりも紙」に追い風が吹いていることを認識していますが、 一方で手掛ける製品のほぼすべてが使い捨て用途であることから、紙だから「環境に良い」製品開発を行っていると言って良いものか、悩んでもいます。
そこで、この企画では自社の製品開発において改めて環境負荷を減らすためにできることは何か?を探し、環境意識の高いお客様に向けた提案力を高めることを目指して、 社長自らが見て聞いて、感じて学んだことを発信してゆきます。社員・スタッフはもちろんのこと、お取り引きのあるお客様にも広く共有させていただき、 一緒に取り組んでいけることを願っています。
2024.06.25 UP
2024.06.25 UP
#07(後編) 古紙の発生地にはどこへでも行く。多様な古紙をリサイクル・ルートに乗せて、リサイクルパルプの新たな価値を創造する日誠産業
サステナ見聞録第7回は、これまでの取材でもその技術力の高さで、たびたびお名前が登場していた、リサイクルパルプの製造販売を手掛ける、株式会社 日誠産業の島大樹専務をお迎えして、お話をうかがいました。後編をおとどけします。
2024.05.20 UP
2024.05.20 UP
#07(前編) 古紙の発生地にはどこへでも行く。 多様な古紙をリサイクル・ルートに乗せて、 リサイクルパルプの新たな価値を創造する日誠産業
サステナ見聞録第7回は、これまでの取材でもその技術力の高さで、たびたびお名前が登場していた、リサイクルパルプの製造販売を手掛ける、株式会社 日誠産業の島大樹専務をお迎えして、お話をうかがいます。
2023.11.28 UP
2023.11.28 UP
#08(後編) 初の展示会、どうだった?
食にまつわるメーカーが多く参加した展示会で、初めて作ったオリジナル商品である紙トレーやランチボックスはどのような反響があったのか、参加した社員に尋ねました。
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